ウィリアムズの控えドライバーとして目立たない存在だった22才のブラジル人ドライバー、フェリペ・ナスルが、F1ブラジルGP開催中のインテルラゴスで一躍、脚光を浴びた。
ザウバーが、ブラジル銀行の後ろ盾を持つナスルを2015年、マーカス・エリクソンのチームメートに起用すると発表したのだ。
■怒りのスーティル
なぜナスルがザウバーから?ケータハムとマルシャが姿を消した今、いちばん経営が危ないのはザウバーだといわれる。すでに三人のドライバーと来季の正式契約を結んでいるほど切羽詰まっているのだ。
そのうちの一人は、エイドリアン・スーティル。6日(木)のFIA、(国際自動車連盟)公式記者会見でチームと戦う姿勢さえ示した。
「走らせる保証もないのに、(自分以外に)二人も契約するなんて。チーム自体、走るかどうか怪しいよ」と、スーティルは怒り心頭だった。
■失意のヴァン・デル・ガルデ
もう一人、ショックと怒りを隠せないのがザウバーの控え選手、ギド・ヴァン・デル・ガルデだ。彼をスポンサーしているアパレルブランドのマグレガーは、すでに2015年のチームを支えることが決まっていたらしいのだ。
「いうまでもなく驚いたよ。顔に描いてあるだろ?」と、ヴァン・デル・ガルデはスイス『Blick(ブリック)』紙に話す。
「来週さっそく、僕のマネージメントと弁護人が対策にあたる」
ヴァン・デル・ガルデを襲った不幸に、F1パドックの友人ニコ・ヒュルケンベルグ(フォース・インディア)も驚いている。彼とは4日(火)に来季のことで話し合ったばかりなのだ。
■当のザウバーは
ナスルはF1実戦デビューを決めて喜んでいいはずだが、周囲のムードは、むしろ暗い。
ザウバーでF1キャリアを始めたナスルの先輩、フェリペ・マッサ(ウィリアムズ)も心配顔である。「ザウバーはどうしちゃったんだろう」
「チームは危機的状況だ。誰にとってもよくないよ」と、彼はブラジル『Estadao(エスタダオ)』紙に語る。
チーム代表で共同オーナーのモニシャ・カルテンボーンも本来ならナスルのF1デビューを誉めてやりたいところだが、チームの存亡について質問をかわすのに手いっぱいの状態だ。今後、訴訟を起こされる可能性もあるし、FIAの第三者機関CRB(契約審査会)も黙っていない。
「プライベートチームとしては、財政状態を考慮に入れて決定を下さざるを得ません。さもないと、生き残りは極めて困難になるのです」と、彼女は報道陣に話していた。
「これがチームにとって正しい道です」
カルテンボーンによると、エステバン・グティエレスと手を切ったことからメキシコ系の支援者はチームを離れるという。それに、ロシア関係やセルゲイ・シロトキンとの提携も終わりを迎えそうだ。
■ペイドライバーの言い分
こうなると、ナスルは「ペイドライバー(金づるのドライバー)」のレッテルを貼られての実戦デビューとなりそうだ。彼とエリクソンの持ち込む資金がザウバーの頼りといった印象はぬぐえない。
「今年は厳しい一年だった」と、6日(木)に語ったナスル。「ザウバーだけじゃない。他チームもね」
「でも、F1は苦戦しているチームを気にかけていると思う。きっと救済の姿勢を示すだろう」
「僕だって、チーム状態を知らないまま身を投じるわけにはいかない」と、彼はブラジル『O Estado de S.Paulo(オ・エスタード・ジ・サンパウロ)』紙に述べた。
■憂慮の声、続々
1980年代に活躍した元F1世界王者ネルソン・ピケも、ブラジルの新世代F1ヒーロー誕生を祝う気になれない。
「ブラジルは喜ぶだろうね」と、『Globo(グローボ)』紙にコメントするピケ。「だが、正直言って私は彼のレースをあまり見たことがない」
ナスルは現在、下位カテゴリーGP2選手権で二番手につけている。だが、ここ数年のF1の傾向を憂慮する者は多い。
15年にわたってF1を内部から見つめてきたジェンソン・バトン(マクラーレン)はいう。「金脈でも掘り当てないかぎり、F1に打って出るのは無理だ。いくつかの来季契約を見れば分かる」