今シーズン限りでプロのレーシングドライバーからの引退を表明したマーク・ウェバー。そのレース人生を振り返ってみる。
■勇敢なオーストラリア:マーク・ウェバー・ストーリー
1991年以降、マーク・ウェバーの生活すべてはレースに捧げられた。
カート、フォーミュラ フォード、F3、F3000、そしてF1では215戦に出場し、9回の優勝と42回の表彰台を経験するという素晴らしい成績を収めた。
2013年、ポルシェワークスチームに所属し、ティモ・ベルンハルトやブレンドン・ハートレーととともに919ハイブリッド・ルマン・プロトタイプで激しい戦いを繰り広げ、2015年には早くもFIA世界耐久選手権チャンピオンを獲得した。
高い人気を持つオーストラリア人にとって2016年は変化の年となった。初夏には長年のパートナーであるアンと結婚し、8月27日には40歳を迎え、そして2016年シーズンの終了とともにプロフェッショナルレーシングドライバーから引退し、ポルシェの特別アドバイザーという新しい責務を負うことになる。
ウェバーは率直な人間であり、自分自身に素直な人間だ。自伝「Aussie Grit(オーストラリアの勇気):私のF1への旅」は2015年に出版され、自身のキャリアについて深い洞察をしている。
■19歳、イギリスへ挑戦
彼は19歳の時、ニュー・サウスウェールズのクエアンベヤンにある家を出て明確な道へ向けて走り始めた。レーシングドライバーとしてのキャリアを積むべくイギリスに移住したのだ。
■メルセデスからル・マン24時間へ出場も、宙返り
当時はスポンサーを持たないその他大勢のドライバーのひとりだったが、彼には生来の才能があった。彼は権威あるブランズハッチのフォーミュラ・フォード・フェスティバルのF3とF3000で優勝し、招聘を受けたメルセデスのスポーツカープログラムから参戦した1999年シーズンのル・マン24時間は、ひとつのハイライトとなった。
ウェバーの乗るクルマとチームは最有力候補だったが、車のエアロダイナミクスは極めて敏感で予選だけでなくウォームアップセッションでも宙返りを起こした。彼はこのドラマティックな2回のクラッシュでも無傷で生還したが、キャリアは終わるかのように見えた。
しかしこれがきっかけとなってF1チームのベネトンでのテストドライブに参加することになり、わずかな期間で、2001年のリザーブドライバーの座を手に入れた。
■鮮烈なF1デビュー。ホームレースでいきなり5位
2002年、彼は戦闘力の劣るミナルディのステアリングを握りホームレースであるオーストラリアGPにおいて5位でフィニッシュし、ウェバーのF1デビューは記憶に残るものとなった。
2005年には当時のBMWウィリアムズF1チームで初めての表彰台を獲得し、参戦131戦目にあたる2009年のF1ドイツGPにおいて、レッドブルレーシングで初勝利を飾っている。また2010年、2012年にはF1モナコGPで優勝を遂げた。
■ル・マン24時間は不運の連続
年齢を重ね成熟したウェバーが、15年ぶりにサルテサーキットへ戻ったのは2014年のことだった。数々のトラブルに見舞われた1999年の思い出は過ぎ去ったかのようだったが、一方で勝利への欲望が彼を飲み込もうとしていた。残り2時間、2位を走っているときに起きたパワートレインが発する異音が夢を打ち砕いた。
2015年、再びティモ・ベルンハルト/ブレンドン・ハートレーと組んで919ハイブリッドで臨み、レース序盤1/3をリードしていたが、ペナルティによって順位を下げてしまった。このトリオは猛チャージを繰り広げ2位を獲得する。
そして2016年はウォーターポンプのトラブルが、ウェバーとチームメイトの優勝を阻むことになった。
■トラブルを乗り越えて勝ち取った初の世界タイトル
最大の栄光は2015年11月、バーレーンの感動的なフィナーレだった。マシーンの両方のスロットルレバーが壊れ、フルスロットルに固定する必要に迫られた。919はたぐいまれなエンジニアリング技術と超人的なドライバーの感覚によってフィニッシュすることができた。タイトル獲得は大きな賭けだった。
「ティモ、ブレンドンと共にポルシェを駆って、僕にとって初のワールドチャンピオンを獲得したことは最高の経験だった」
ウェバーはこの偉大な成績について語るとき、チームメイトの名を挙げないことはない。
彼とポルシェの密接な関係は決して新しいものではない。10代のころ、彼は友人から911を借りたことに始まり、初めて購入したポルシェはターボモデルだった。現在の彼のコレクションは918スパイダーや911R、GT3RS、911GT2RS、911GT3RS4.0、1954年型356カブリオレ、そして1974年型2.7カレラだ。
■データ
誕生日: 1976年8月27日
出身地: クエアンベヤン(オーストラリア)
国籍: オーストラリア
居住地: バッキンガムシャー(イギリス)
身長/体重: 1.83 m/76 kg
婚姻区分: 既婚(アン夫人)
趣味: スポーツ全般、マウンテンバイク、ヘリコプター操縦
ウェブサイト: www.markwebber.com
Twitter: @AussieGrit
■キャリア
2016: ポルシェ ワークスドライバー(WEC LMP1クラス)
ニュルブルクリンク、メキシコシティ、オースティンで優勝
2015: ポルシェ ワークスドライバー(WEC LMP1クラス)
ドライバー選手権優勝(ベルンハルト/ハートレーと共に)
4勝(ニュルブルクリンク、オースティン、富士、上海)
ポールポジション3回、ル・マン24時間2位
2014: ポルシェ ワークスドライバー(WEC LMP1クラス)
シルバーストーン、富士、バーレーンで3位サンパウロでポールポジション獲得
2013: F1世界選手権 年間ランキング3位
(インフィニティレッドブル レーシング)
2012: F1世界選手権 年間ランキング6位 (レッドブル レーシング)
モナコ、シルバーストーンで優勝
2011: F1世界選手権 年間ランキング3位 (レッドブル レーシング)
サンパウロで優勝
2010: F1世界選手権 年間ランキング3位 (レッドブル レーシング)
バルセロナ、モナコ、シルバーストーン、ブダペストで優勝
2009: F1世界選手権 年間ランキング4位 (レッドブル レーシング)
ニュルブルクリンク、サンパウロで優勝
2008: F1世界選手権 年間ランキング11位 (レッドブル レーシング)
2007: F1世界選手権 年間ランキング12位 (レッドブル レーシング)
2006: F1世界選手権 年間ランキング14位 (ウィリアムズF1チーム)
2005: F1世界選手権 年間ランキング14位 (BMWウィリアムズF1チーム)
2004: F1世界選手権 年間ランキング13位 (ジャガーレーシング)
2003: F1世界選手権 年間ランキング10位 (ジャガーレーシング)
2002: F1世界選手権 年間ランキング16位 (KL ミナルディ アジアテック)
2001: F3000 年間ランキング2位(3勝)
ベネトンルノーF1テストドライバー
2000: F3000 年間ランキング3位(EFR/アロウズ、1勝)
アロウズF1テストドライバー
1999: FIA GT 選手権 (AMG メルセデス、ル・マン24時間を持って離脱)
1998: FIA GT 選手権年間ランキング2位 (AMG メルセデス、5勝)
1997: イギリスF3 年間ランキング4位 (1勝)
1996: イギリス フォーミュラーフォード 年間ランキング2位 (4勝)
ブランズハッチでのFフォードフィスティバルで優勝
1995: オーストラリア Fフォード 年間ランキング4位
ブランズハッチでのFフォードフィスティバルで3位
1994: オーストラリア Fフォード でデビュー
1991-1993: レーシングカート