【F1分析|アストンマーティン・ホンダ】なぜアロンソは王者ノリスを抑えられたのか? 最終4周のデータから探る、今季最高8位入賞の背景
2026年10月4日(日)、F1第16戦バーレーンGP in マレーシアで、アストンマーティン・ホンダのフェルナンド・アロンソが今季最高の8位入賞を果たした。
注目すべきは、レース終盤の4周にわたって、メルセデスPUを搭載するマクラーレンのランド・ノリスを抑え切ったことだ。最終的なタイム差はわずか0.621秒。しかも、この4周の合計ラップタイムではノリスの方が0.474秒速かった。
ここでの注目ポイントは、なぜアロンソは格上のマクラーレンに乗る世界王者ノリスを抑えられたのか。
その理由を探ると、セパンのコース特性、アロンソの巧みなライン取り、そしてアストンマーティン・ホンダの競争力について、興味深い事実が浮かび上がってくる。
■雨とセーフティカーが変えたレース展開
決勝前の大雨によって、セパンの路面コンディションは大きく変化した。
セパン国際サーキットはもともと路面のグリップが高いサーキットではなく、滑りやすいことに加え、金曜・土曜で路面に付着していたタイヤのゴムは雨によって洗い流され、グリップが低下。本来はタイヤのゴムが路面に付着することで周回ごとにグリップが増すものが、リセットされてしまった。各チームが予選までの走行で確認していた路面状況とは異なる条件での戦いとなった。
アロンソは路面がセミウェットの中12番手からミディアムタイヤでスタートしたものの、濡れた路面に苦戦し、序盤には17番手まで後退した。特に1周目は、ドライタイヤ勢は小雨用のインターミディエイトタイヤ勢より1周当たり30秒も遅かった。
しかし、路面が乾いていくとともにペースを取り戻していった。多くのドライバーがドライタイヤに交換していき、タイヤによる大幅なタイム差がなくなると、35周目にはチームメイトのランス・ストロール、36周目にはエステバン・オコン(ハース)をオーバーテイク。40周目にはアービッド・リンドブラッド(レーシングブルズ)を抜いて10番手に浮上した。
その後、ジョージ・ラッセル(メルセデス)のマシントラブルと、接触を回避しようとしたノリスのコースオフによって8番手に浮上する。
アロンソがノリスを直接オーバーテイクしたわけではない。しかし、52周目のレース再開後には、速さで上回るマクラーレンを相手に8位を守り切る戦いが待っていた。
■最終4周、セクター2で圧倒したアロンソ
FIAの公式セクタータイムを比較すると、興味深い違いが見えてくる。
52周目から55周目までの4周で、アロンソはセクター2においてノリスを4周連続で上回っていた。
そのタイム差は、52周目が0.537秒、53周目が0.468秒、54周目が0.293秒、55周目が0.172秒。4周合計でアロンソが1.470秒も速かった。
一方、セクター1ではノリスが合計1.155秒、セクター3でも0.789秒上回っている。
つまり、アロンソは1周全体の速さでは劣っていたものの、セクター2では明確な競争力を発揮していたことになる。
実際、ノリスは52周目に0.906秒、53周目に0.845秒、54周目には0.462秒までアロンソとの差を縮めた。
しかし、最終55周目にはアロンソが反撃する。この周、アロンソはセクター1で0.163秒、セクター2で0.172秒ノリスを上回った。セクター3では0.176秒を失ったものの、1周全体ではノリスより0.159秒速い1分40秒559を記録した。
その結果、タイム差を0.621秒に広げてフィニッシュした。
4周全体ではノリスの方が速かった。それでも、最終周にアロンソがペースを引き上げ、世界王者の追撃を振り切ったことは注目に値する。
■オンボード映像で見えた巧みなライン取り
今回の戦いで特に印象的だったのが、アロンソのライン取りだ。オンボード映像を確認すると、アロンソは自分のマシンの長所と短所を理解したうえで、ノリスにオーバーテイクのチャンスを与えないような走りを見せていた。
単純に最速ラップを追求するのではなく、マシン特性と後続車との位置関係を考慮しながら、コーナーへの進入や立ち上がりで巧みにラインを選択しているように見えた。
セクター1と3ではノリスにタイムを奪われながらも、セクター2では確実に取り返す。この区間ごとの性能差を踏まえると、アロンソがマシンの特性を生かしながらポジションを守ったという見方には説得力がある。
もちろん、セクタータイムだけでライン取りの効果を証明できるわけではない。しかし、オンボード映像で確認できる走りと実際のタイム差を重ね合わせると、アロンソが単にマクラーレンの追撃に耐えていたのではなく、状況を読みながら隙を与えない走りをしていたことがうかがえる。
■セパンのコース特性も味方したのか
今回、アストンマーティン・ホンダが競争力を発揮できた背景には、セパンのコース特性もある。
アロンソは予選後、ストレートでのパフォーマンス不足を認めながらも、今回のサーキットはマシンに適していると説明していた。また、ストロールもセパンが比較的パワー依存度の低い、グリップに制約されるコースであることが有利に働いたと分析している。実際、予選では今季初めて2台そろってQ2進出を果たした。
FIA公式のセクタータイムを比較すると、アロンソは決勝中盤の18周目から24周目まで、7周連続でノリスをセクター2で上回っていた。この区間では両者とも9周目に交換した新品ハードタイヤを使用しており、タイヤ条件も近い。さらに終盤の52周目から55周目にも4周連続でノリスより速いタイムを記録した。
ただし、終盤は両者のタイヤの使用履歴が異なる。こうした条件の違いを考慮しても、中盤の連続したセクター2での優位性は、セパンのコース特性とアストンマーティン・ホンダの相性を考えるうえで興味深いデータといえる。
ただし、今回の結果だけでマシン全体の競争力がマクラーレンに近づいたとは言えない。
■半年間の振動対策も前進しているのか
一方、アストンマーティン・ホンダ自身の改善も無視できない。
シーズン序盤、ホンダPUは深刻な振動問題を抱え、アロンソは振動を抑えるためにエンジン回転数を下げていたことを明らかにしている。
F1公式アプリに表示されるエンジン回転数を予選中に目視で比較すると、ホンダPUは多くの場面で約11,500rpm付近でシフトアップしていた。一時的に約12,000rpmまで上昇する場面も確認できたが、メルセデスなどのライバルPUが約12,000rpmまで引っ張る傾向にあるのに対し、通常のシフトアップ回転数には約500rpmの差が見られた。
シーズン序盤には、この差が約1,000rpmに達していたことを考えると、ホンダPUが使用する回転域は徐々に広がっている可能性がある。
アロンソ自身がシーズン序盤に振動を抑えるため回転数を下げていたと説明していることからも、半年間にわたる振動対策が、これまで制限していた高回転域の使用につながっているのではないかという見方はできる。
ただし、シフトアップ回転数はPUの出力特性やエネルギーマネジメントによっても変わるため、振動対策だけが理由とは断定できない。
2026年、アストンマーティンはホンダ製PU、自社開発のギアボックス、アラムコの新燃料、バルボリンの潤滑油という新たな組み合わせでシーズンを迎えた。2025年までアストンマーティンはメルセデス製PUとギアボックスを使用してランキング7位のチーム力だったことを考えれば、エイドリアン・ニューウェイが手がけたマシンであっても、新たな組み合わせの特性を現場が理解し、使いこなすには時間が必要だったと考えられる。実際、非常に厳しい船出となった。
それぞれの性能を最大限に引き出すには、システム全体の最適化が欠かせない。半年間にわたって続けてきた振動対策やエネルギーマネジメントの改善が、少しずつ成果につながっている可能性も考えられる。
■次戦シンガポールGPでも期待できるのか
もちろん、今回の8位入賞だけで今後のアストンマーティン・ホンダのチーム力が上昇すると判断するのは時期尚早だ。ホンダF1の折原伸太郎チーフエンジニアも、今回の結果がPU本来の性能を完全に反映したものではないと説明している。
それでも、アロンソとアストンマーティン・ホンダがセパンで見せた競争力と、最後の4周にわたるノリスとの攻防は、今後に期待を抱かせる内容だった。
10月5日には、ホンダのF1復帰を推進してきたHRCの渡辺康治社長が、2027年1月1日付で退任することも発表された。渡辺社長が重視してきた、ホンダとアストンマーティンが一つのチームとして取り組む姿勢。その成果が、少しずつコース上でも見え始めているのかもしれない。
アロンソ自身も、次戦シンガポールGPには一定の期待を示している。セパンでの8位入賞は、コース特性と天候とレース展開に恵まれた一時的な結果だったのか。それとも、半年間の開発とチーム力が実を結び始めた兆しなのか。
今週末のシンガポールGPは、その答えを探る重要な一戦となる。
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