【F1写真展】日本にF1を伝えた写真家・間瀬明が見つめた極限の美 京都文化博物館別館で「The EYES」開幕

2026年05月28日(木)4:00 am

記事要約


・F1写真家・間瀬明氏の遺産をたどる写真展が京都で開幕

・F1ドライバーの「瞳」とF1マシンの「スピード」を対比して展示

・HRC渡辺社長らが来場し、F1文化を支えた間瀬氏の功績を振り返った


2026年5月27日(水)、F1写真展『The EYES MASE AKIRA F1レースの伝道師 間瀬 明の遺産「わたしは勝った夢をみた」』が、京都文化博物館 別館ホールで開幕した。

モータースポーツの黎明期からその熱狂をフィルムに焼き付け、日本におけるF1の地位を築き上げた写真家、間瀬明氏(1934~2022)。間瀬氏が遺した膨大なアーカイブから、その美学の核心に迫る写真展だ。

間瀬氏は1967年からF1の世界に入り、1972年からスイスに拠点を移し、生涯で足を運んだレースは500戦を超える。会場には、その偉業を称えて名門モエ・エ・シャンドン社から贈られた記念のシャンパンボトルが静かに佇み、彼が歩んだ道のりの重みを物語っている。

■「瞳」に宿る精神と、輪郭を失うほどの「スピード」

「いつかその目を撮ってやろう…」

その言葉どおり、間瀬氏が20年間にわたり没頭したのは、極限状態に置かれたドライバーたちの姿だった。

展示の核となるのは、F1ドライバーたちの「目」を捉えたモノクロームの作品群だ。精神を研ぎ澄まし、命を懸けて対峙する一瞬の輝きが、圧倒的なコントラストで壁面を飾る。

その向かい側には、対比をなすように、F1マシンの「スピード」を描写したアーティスティックな写真が並ぶ。速すぎるがゆえにマシンのフォルムは輪郭を失い、その描写の中に、車体の鮮やかな色彩だけが光の軌跡として美しく残る。

会場には当時の現場の熱量や空気感がそのまま封じ込められており、時代を超えて人々を引きつけるF1の普遍的な魅力を再確認させる空間となっている。

■盟友たちが語る、F1の伝道師

初日には、間瀬氏と生前から親交のあったホンダ・レーシング(HRC)の渡辺康治社長が、安田啓一副社長らとともに会場を訪れた。

渡辺社長は、自身が20代の若手社員だった頃、六本木にあった間瀬氏の事務所へネガを受け取りに行っていた時代を回想した。

「間瀬さんは、日本にF1を持ってきた人。第2期ホンダF1活動(1980年代〜90年代)には、日本の文化を世界に広めるという『第2の使命』もありました。間瀬さんはその活動の中で、サーキットのホスピタリティ・ブースの運営にも携わり、現地のコーディネーターも務めました。日本文化を伝える一環として、天ぷらなどの日本食の手配にも関わっていました」

そう当時を振り返ると、間瀬和子夫人は「私もイギリスのシルバーストーンでカレーを作りましたが、材料の調達が大変でした」と、黎明期を共にした者たちだけが知る温かな昔話に花を咲かせる一幕もあった。

和子夫人にとって最も印象深いグランプリは「アルゼンチン」で、「イグアスの滝を見に行くことも条件に行きました」と微笑んだ。こうした旅の記憶もまた、海外のF1グランプリに足を運ぶ魅力のひとつだ。

■古き良き時代のF1の記録

会場には、間瀬氏がホンダの創業者・本田宗一郎氏、F1界の重鎮バーニー・エクレストン氏、伝説的ドライバーのアイルトン・セナらと肩を組む写真なども展示されており、F1界との深い親交と、生前の人柄が伝わってくる。

和子夫人によると、自宅には本物のホンダF1エンジンや、F1のカウル(展示中。1976年ブラバム・アルファロメオ)、ヘルメット(展示中。ネルソン・ピケ)など、F1グランプリで実際に使われていたアイテムを多数保管していたという。さらにライカのカメラを50台も所有していたというが、今はその多くを手放した。

会場に展示されている年代物のCanonも、現代では考えられないほど手作業が求められるマニュアル機で、撮影枚数にも限りがあり、現像するまで仕上がりを確認できないフィルム一眼レフカメラだ。時速300キロの世界を、こうしたカメラで撮り続けてきたことにあらためて驚かされる。

初日となったこの日、来場者の中にはF1デザインのブルゾンを羽織った、海外の若い女性たちの姿も見られた。近年のNetflixやSNSを通して世界的な広がりを見せる、現代のF1人気の一端を物語っていた。

館内では、間瀬氏が保管していた、今では入手困難な当時の秘蔵オリジナルステッカーも数量限定で配布されており、ファンにとって貴重な「ギフト」となりそうだ。レトロなデザインのステッカーを見た若い女性ファンからは「かわいい」、往年のファンからは「懐かしい」という声が上がり、会場には世代を超えた笑顔が広がっていた。

6月3日(水)には、間瀬氏と親交のあった元F1ドライバーの片山右京氏が来場し、トークイベントに登壇する予定だ。

■報道写真を超え、京都で“作品”として蘇るF1

間瀬氏が残した写真は、単なる記録ではない。そこに写されているのは、極限の集中状態にあるドライバーの一瞬の表情であり、F1という世界の魅力を日本に伝え続けた間瀬氏のまなざしそのものだ。

「私に語りかけたのは、彼らの目、真実を語る目であった。」

図録に記されたこの言葉のとおり、展示された写真からは、ドライバーたちの緊張感、集中、そして人間としての表情が静かに伝わってくる。

一方で、F1マシンのスピードを捉えた作品からは、輪郭を失うほどの速さと、光の軌跡のように残る色彩が浮かび上がる。そこには、報道写真でありながら、芸術作品としての強い存在感がある。

1989年に刊行された写真集『The EYES』には、作家の村上龍氏が文章を寄せていた。その事実からも、間瀬氏の写真が当時から、単なるモータースポーツの記録を超えた表現として受け止められていたことがうかがえる。

半世紀以上にわたり、間瀬氏が人生をかけて追い続けたF1の一瞬。その一枚一枚が、京都という文化の街で“作品”として蘇り、現代のF1ファンの瞳と心に語りかけている。

ホンダがF1に挑み始めてから60年以上。そこには多くの人が関わり、それぞれの想いが受け継がれてきた。

この写真展を見ていると、F1は日本でも長い時間をかけて育まれ、いまや一つの文化として息づいていることを実感させられる。

間瀬明氏が遺したF1報道写真。その情熱を人生を通して間近で見守り続けた和子夫人が、いまも作品として大切に伝え続けている。令和の今、京都という文化の街でその写真と向き合うことで、F1は単なるレースの記録を超え、時代を超えて受け継がれる文化として静かに立ち上がっている。

「F1は、日本の文化になった。」

筆者がそう感じたのは、間瀬明氏が遺した写真と、その情熱を守り続けてきた和子夫人の想いに触れたからだった。F1報道の大先輩が日本に残した功績の大きさに、あらためて深い敬意を抱かずにはいられない。

間瀬明氏がファインダーを通して見つめ続けた、人間の精神の極致とスピードの美学。会場となる京都文化博物館 別館は、明治期の名建築である旧日本銀行京都支店を利用した重要文化財であり、その静謐な空間で、F1をめぐる芸術作品を肌で感じられる貴重な機会だ。

■開催概要

イベント名:The EYES MASE AKIRA F1レースの伝道師 間瀬 明の遺産「わたしは勝った夢をみた」写真展
会期:5月27日(水)~6月7日(日)
会場:京都文化博物館 別館ホール
開館時間:10:00~18:00 ※最終日14:00まで
休館日:月曜日
入場料:一般 1,000円/大高中生 600円/小学生以下 無料
チケット取扱:京都文化博物館(開催期間中窓口)、チケットぴあ(Pコード:687450)
●THE EYES公式Instagram
●京都文化博物館 公式ホームページ

■トークイベント

ゲスト:片山右京氏
6月3日(水)15:00スタート、約1時間
本展の入場料が必要
※事前申込不要

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