ルイス・ハミルトン(マクラーレン)が、チーム内の状況に喜々としているのか、それともうんざりしているのか、関係者は気になるところである。しかし、ハミルトン本人はほとんど表情に出さない。
ハミルトンは、カナダGPで優勝し、ランキングでも首位に躍り出た。ところが先日、自身のエンジニアたちが不調にあえぐチームメートのジェンソン・バトン陣営にハミルトンが集めたデータやレースプランを漏らしていたことが明らかになったのだ。そのことに関して聞かれたハミルトンは、一言「おもしろいね」とだけ答えた。
カナダGPではハミルトンから周回遅れという惨敗を喫したバトン。これを受けてマクラーレンがとった方針は、両陣営のエンジニアを1つにまとめあげることであった。
ハミルトンはバレンシアでリポーターたちに次のように語っている。
「ファクトリーへ行った時、トップエンジニア全員が1つのテーブルを囲んでいるのを見たんだ」
「自分が採ったすべてのデータをラップごとに照らし合わせていたんだ。ジェンソンと異なるセットアップで走ったときのデータも含めて全部さ。だから今じゃジェンソンは、僕がクルマのセットアップのために試行錯誤して採ったありとあらゆるデータを手に入れたことになるよ」
「今週末に早速成果が現れるだろうね」
高い評価を受けているチームメートよりようやく優勢となったことでハミルトンが満足しているのか、もしくは速さの秘密がチーム内のスパイ行為ともとれる行動の対象となっていることに腹を立てているのか察しがたいところである。
「今のバトンからは以前よりも自信が感じられる」とリポーターから指摘されると、ハミルトンは「だろうね」と即答した。
「とてもたくさんの作業が彼のクルマに対して行われたんだからね」
しかし、元F1チャンピオンの同僚が自分のセットアップをコピーしなければならないほど圧倒的に優位に立っているのだから、気分はよさそうなはずなのだが、実はそうでもないようだ。
「個人的にはデータロギング(走行中の各種データを細かく収集すること)がなかったころのほうが好きだね。ドライバーの腕にかかっていたところが大きかったから。今ではすっかり味気なくなってしまったよ」