ジェンソン・バトン(マクラーレン)が、先週末ベルギーGPが開催されたスパ・フランコルシャンにおいて、チームメートのルイス・ハミルトンがマクラーレンの機密事項を漏らしてしまったことに対し「失望した」と話した。
ベルギーGP予選において、バトンが2009年のモナコGP以来3年ぶりとなる久々のポールポジションを獲得。これに対しハミルトンは、バトンと同じマクラーレンに乗りながら、バトンからコンマ8秒以上の大差をつけられて8番手に沈んでいた。
ハミルトンはこの理由をツイッターで100万人にも及ぶとされるフォロワーに向けて発信したが、その際、ハミルトンはマクラーレンの機密情報であるテレメトリー(※)の画像をツイッター上に公開。そこには車高やアクセル開度といった慎重に扱うべき情報も含まれていた。
伝えられるところによれば、ハミルトンはこの件でチーム側から叱責(しっせき)を受けたとされているが、マクラーレンのチーム代表であるマーティン・ウィットマーシュと広報責任者であるマット・ビショップはそうした事実があったことを否定している。
だが、このハミルトンの一件についてどう思うか質問されたバトンは、次のように答えた。
「すごく驚いたよ。そして、そう、失望したね」
「僕たちはすごく一生懸命に作業をしてクルマを改良しようとしているし、そういった情報は秘密として公(おおやけ)にしないようにしている。それをツイッター上で目にしたくはなかったよ。予選のすべてのテレメトリーだったからね」
バトンはさらに、ハミルトンがスピード差を生じていた原因として挙げていた新型ウイングと旧型ウイングによる最高速度の差によってコンマ6秒もの違いが生じたということについて、それはハミルトンの見当違いだとして次のように続けた。
「彼(ハミルトン)はコーナーでその分を取り戻すべきだったんだよ。なぜなら彼のクルマにはもっとダウンフォースがつけられていたんだからね。それに、いずれにせよ僕は予選でコンマ8秒速かったんだから」
また、かつてジョーダン・グランプリなどで技術部門の責任者として活躍し、現在はイギリスの放送局『BBC』でコメンテーターを務めるゲイリー・ アンダーソンは、ハミルトンがマクラーレンの機密事項を世界にさらしてしまったことはハミルトンがいかに「単純」であるかを示しており、まさに「木を見て森を見ず」だ、と辛辣(しんらつ)な意見を述べている。
しかし、マクラーレンのテクニカルディレクターであるパディ・ロウは、この件でのダメージはそれほどないと次のように語った。
「そこに示されていたデータは他者がうまく利用できるものではないよ。だからそんなに大きなダメージになったとは思っていない」
だが、『BBC』はある匿名のエンジニアの話を引用し、そのテレメトリーシートからマクラーレンがどのようにF1カーを走らせていたか解き明かすことができるだろうと指摘している。
かつて長年マクラーレンでドライバーを務めていたデビッド・クルサードは、『Telegraph(テレグラフ)』で次のように書いている。
「F1チームはそうした種類の情報を守るためにはどんなことでもするものだよ」
「僕がF1を始めたころは、よくゴミ拾いをやっていたことを思い出すよ。レースが終わった翌日の月曜日にライバルチームのゴミ箱をあさって、そうしたテレメトリーが捨てられていないか探したものさ」
「今では、どのチームもモーターホーム(ガレージ裏などに設けられたチームの専用施設)にシュレッダーを備えているし、コンピューターにも高度なセキュリティーシステムが導入されているけどね」
「残念ながら、ルイスにはまたひとつ教訓ができたね」
さらに、昨年までトロ・ロッソに在籍し、現在はピレリのテストドライバーを務めるハイメ・アルグエルスアリも次のように付け加えている。
「僕は今回のようなことは絶対にしないよ。それは守秘義務をないがしろにするものだし、自分自身やチームに対してのひどい仕打ちでもある。みんなが頑張っているから自分もベストを尽くせるし、会社だって改善してゆけるんだからね」
(※)テレメトリーとはF1カーから無線によって送られてくるさまざまな情報を管理するシステムのこと。エンジン、ギア、ブレーキ、タイヤなど、クルマの情報やドライバーがどのようにアクセルを踏み、どのようにブレーキをかけたかなど、F1カーが走行した状態を示すあらゆる情報が含まれている。