2008年のF1チャンピオンであるルイス・ハミルトン(マクラーレン)は、F1参戦6年目となる今シーズンに向けて前向きに取り組むことで、報道され尽くした感のある個人的な問題やレースでの不振といった去年の出来事を忘れ去ろうとしていた。
しかし、ハミルトンは2011年シーズンのポイント争いで敗れたチームメートのジェンソン・バトンに今年の開幕戦オーストラリアGPにおいてもスタート直後の第1コーナーで追い抜かれてしまった。最終的に表彰台へ上ったとはいえ、そのバトンと昨年の王者であるレッドブルのセバスチャン・ベッテルに次ぐ3位に終わったことについてハミルトンは失望の色を隠すことができなかった。
ポールポジションからスタートしつつも、その優位性を生かすことができなかったハミルトンは、「コース上で苦戦しただけさ」とレース後に話していた。
かつて長期にわたってマクラーレンでドライバーを務め、現在はF1評論家を務めるデビッド・クルサードは、レース後のハミルトンの「人目を引く」身ぶりや、表彰台の上で見せた無表情な態度に対して懸念を抱いているようだ。
クルサードは『Telegraph(テレグラフ)』に寄稿するコラムの中で、「あれ(バトンの勝利)がルイスを打ちのめしたのだろうか?」といぶかしがっている。
2年前には、ハミルトン中心のマクラーレンへ移籍することで、ハミルトンの庭に足を踏み入れた、とさんざん揶揄(やゆ)されたバトン。しかし、今やマクラーレンでF1タイトルを獲得する望みをたくされる存在となったことに、多くのF1関係者が驚きを感じている。
だが、マクラーレンのチーム代表であるマーティン・ウィットマーシュは次のように語った。
「みんなはバトンを過小評価している。彼は物静かで、落ち着いており、おおらかな人物であるがゆえに、みんな彼が戦うことや勝つことに飢えているということを必ずしも理解できないんだ」
「彼は今年のタイトルを手にするよいチャンスが訪れたと信じているはずだ。われわれがクルマを改良し続けることができて、ミスを犯さず、信頼性のあるものにすることができるなら、彼がそうできない理由なんてないよ」
一方、バトンの隣のガレージに目を向ければ、意気消沈し、今年いっぱいで契約が切れるドライバー、ハミルトンがいる。
やはりかつてマクラーレンでドライバーを務め、現在は解説者を務めるマーティン・ブランドルが『Motor Sport Magazine(モータースポーツ・マガジン)』の4月号へ次のように述べた。
「ルイスの調子がよかったころ、彼は無敵だった。だが、私はマクラーレンが彼をドライバーとしてとどめておくべきか否かを決めかねているのではないかと推測している。なぜなら、彼は大きなお荷物を持ち込むからね」
しかし、ウィットマーシュは、オーストラリアGP後にハミルトンが不機嫌だったことは意に介さず、ハミルトンが2012年シーズン早々にまたもや失望の悪循環に入ったという懸念はしていないと次のように語っている。
「彼が3位となることや、チームメートに負けても満足し始めるようなら、そのときはもう私たちが愛し、称賛するルイスではなくなってしまうだろう」