・2026年のF1は車体とPUが刷新され、ホンダ/HRCは“初めての継続”による強みを武器に挑む。
・HRCはアストンマーティンとの新体制で初年度は“融合”を最重要視し、ホモロゲーションへ全力。
・新PUはマネジメントが鍵となり、HRCは「勝つだけ」と技術陣が覚悟を示す中、1月末テストに注目が集まる。
2026年のF1は車体とパワーユニット(PU)が同時に新レギュレーションへ移行し、全チームにチャンスとリスクが生まれる大変革の年となる。本稿では、F1を長く追うファンはもちろん、近年増えている新規ファンでも整理しやすいよう、ホンダ/HRCの現在地とアストンマーティンとの新体制を見ていく。
ホンダは2021年、マックス・フェルスタッペンとともにドライバーズタイトルを獲得し、一度はF1ワークス活動を終えた。しかしレッドブル・レーシングが世界一のPUを手放すはずもなく、強い要請を受けたホンダは、2022年からレース専門会社ホンダ・レーシング(HRC)が製造・運用を継続。「HRC Sakura」で組み上げられたPUはレッドブル・パワートレインズ(RBPT)に提供され、サーキットでもHRCがサポートを続けた。
結果として、このPUは2024年までフェルスタッペンの4連覇を支えた。これは世界のモータースポーツ史においても極めて稀な成果である。
ホンダはこれまで情勢の変化によりF1を離れるたびにノウハウを断絶させてきたが、第四期ではHRCを通じて知見を継続できた。この“初めての継続”こそが、2026年に向けた最大の強みだ。
2025年はレッドブル内部の混乱もあり前半は苦しんだが、後半で復調し最終戦では完璧な勝利を挙げた。フェルスタッペン自身がHRCへの深い感謝を述べたことからも、性能と信頼性の高さが証明されている。
ホンダのF1史を振り返れば、第二期の1988年にマクラーレン・ホンダが16戦15勝(勝率93.75%)という伝説を残し、第四期の2023年にはレッドブルが22戦21勝(勝率95.45%)で歴史を塗り替えた。“勝ちにこだわる”という企業DNAは、ルールや時代が変わっても揺らいでいない。
HRCは勝つことを最優先にしつつ、人材育成にも強い価値を置いている。極限状態で磨かれた判断力は四輪部門だけでなく、ホンダ・ジェットやロケット開発にも応用されている。レースを通じて人が育ち、その人材が会社全体の技術力向上につながる。これがホンダの強さである。
PUにおいては、2025年はメルセデス、フェラーリ、ルノー、ホンダの4メーカーが供給し、激しい競争を繰り広げた。ルノーは同年限りでの撤退を決断し、2026年からはアウディが新規参戦する。ホンダは日本メーカーとして唯一F1に挑み続け、新PUのサウンドを世界に先駆けて公開したことで、注目度はさらに高まった。
シーズン終了後、多忙な渡辺康治HRC社長に2026年への見通しを聞くことができた。渡辺社長は浮き足立つことなく、冷静に現状を捉えていた。
TopNews:2026年の次世代パワーユニット(PU)について伺います。第四期復帰時は“ゼロ”からのスタートで苦戦しましたが、今回は最強PUを作り上げたメンバーとノウハウが揃っています。世界中のファンからの期待も大きいですが、現状をどう見ていますか?
渡辺康治社長:2026年のレギュレーションはICE(エンジン)も電動モーターも、2025年までとは全く異なる新しい規定となります。そのため、目標値の設定は非常に難しく、現在はHRCとして合理的な目標を掲げ、開幕までにどう到達するかを突き詰めている段階です。
勝てるかどうかについては、他社の性能が全く未知数であることに加え、我々自身もこれまでのレッドブルではなく、アストンマーティンという新しいチーム、新しい体制、新しいドライバーと組むことになります。これらを考えると、現時点では本当に“未知数”と言わざるを得ません。
もちろん、HRCが勝利を目指す姿勢に変わりはありません。ただ初年度(2026年)は、アストンマーティンとの新しいコラボレーション体制をしっかり機能させることが最も大切な1年になると考えています。
2月末のホモロゲーション(承認手続き)に向けて全力で取り組みますので、どんな状況であっても応援していただければと思います。
モータースポーツ、特にF1はPUだけで勝てるカテゴリーではない。車体とのパッケージングが鍵を握る。ホンダが2026年から組むアストンマーティンは、ローレンス・ストロールが牽引し、最新設備や潤沢な予算を備え、チーム代表には“勝たせる男”エイドリアン・ニューウェイが就任する。
ホンダPU×ニューウェイ車体という組み合わせは、レッドブル時代に最強マシンを生み出した実績があり、期待は大きい。アストンマーティンは10チーム中ランキング7位のチームのため簡単な挑戦ではないが、ホンダPU×ニューウェイという組み合わせにより上位で戦うための基盤は過去よりも大幅に強化されている。
ただしF1に魔法はない。ベース車を作った後は改良の積み上げとノウハウの蓄積、人の判断力が勝敗を分ける。ホンダもニューウェイも、この“技術で勝つ”という領域に強みを持つ。1年を通してチームの戦略、レース週末の戦い方、レース中のピットストップ戦略やタイヤ選択も重要になる。
ドライバーはフェルナンド・アロンソとランス・ストロール。アロンソは勝利から遠ざかるが、技術と闘争心は衰えておらず、勝てるマシンがあれば必ず前に出る。ストロールもポールポジション1回、表彰台3回と実績があり、マシンがハマれば速い。
HRCの田辺豊治モータースポーツディレクターにも話を聞いた。新PUはICEと電力がほぼ50:50の比率となり、これまでとは異なるマネジメントが求められる。
以下の3つの質問に答えてもらった。
1:従来のPUのノウハウは新PUに引き継げるか?
→「引き継げる」
2:新PUで最も難しい点は?
→「パワーマネジメント」
モーターは出力時間が短く、充電時間も必要。電力の使いどころが勝負を左右する。
3:マーケティングの積極的な推進についてどう思うか?
→「私たち技術側は勝つことだけを考えています。それで会社として存在感を示してもらえたらいいと思っています」
勝ちにこだわるホンダらしい回答だった。勝つために最善を尽くすという姿勢は一貫している。
ホモロゲーションが迫る2月末まで、ホンダ/HRCはどんなパワーを見せるのか。そしてライバルはどのような答えを持ってくるのか。1月末からのテストに世界の視線が集まっている。