2026年9月16日、イギリスのシルバーストンで、4度のF1ワールドチャンピオン、マックス・フェルスタッペンが、世界各地から選ばれた100人を相手に、最後尾から全員抜きを目指すレッドブルの特別イベント「Max vs 100」に挑戦した。

フェルスタッペンは101番グリッドからスタートし、30周以内に100人全員をオーバーテイクすれば勝利。抜かれた挑戦者は、その時点でレースから脱落する。
参加した100人は、世界各地から選ばれたファンをはじめ、コンテンツクリエイター、レッドブルのアスリート、ジャーナリスト、テレビ出演者など。全員が同一仕様のカートを使用し、最低重量は85kgに統一された。
さらに、フェルスタッペン以外の参加者には「チャッキー・コーナー」と呼ばれるショートカットを一度だけ使用する権利が与えられた。この名称は、マクラーレンCEOのザック・ブラウンが、フェルスタッペンをホラー映画の悪役のように執拗に追い続ける存在に例えた際、フェルスタッペンが「僕のことはチャッキーと呼んで!」と返したことに由来する。フェルスタッペン自身もレース後半からチャッキー・コーナーを使用可能だ。
また、レース中にはフェルスタッペンとほかのドライバーが直接会話できる仕掛けも用意された。
スタート前、フェルスタッペンは「不可能ではありませんが、かなり難しいと思います。でも、それでいいですよね? だからこそチャレンジなんです」と語っていた。
今回の企画は、フェルスタッペンにとって自身の原点でもあるカートへの“里帰り”でもあった。フェルスタッペンは4歳半でカートを始め、年齢とともにカテゴリーを上げながら、F1への道を歩み始めた。
「僕は4歳半の時に、とても小さなカートで走り始めました。年齢とともに、いろいろなカテゴリーのカートへステップアップしていきました。11年か12年くらいカートをやっていました。でも、もうかなり昔のことですね!」

シグナルが消えると、101番グリッドからフェルスタッペンは一気に加速。100台が密集する中を、まさに縫うように進んでいった。
第1コーナーからスピンや接触が相次ぎ、コース上は大混乱。フェルスタッペンも思わず「何が起きているのか全然分からない。カオスだよ」と無線で叫ぶほどだった。
それでも目の前で起きるクラッシュを巧みに避け、時にはコース脇へ逃げながら次々とオーバーテイク。わずか1周で64人を抜き、36番手まで浮上した。フェルスタッペンはレース後、最大のポイントとなった1周目について詳しく振り返った。
「最初の1周はかなり信じられないような展開でした。いろいろなことが起きて、実際に何台かのカートが動けなくなっていましたが、僕はいつも反対側をうまく通ることができたので、巻き込まれずに済みました」
「それで最初の1周だけで60人くらい抜くことができました。トップへ向かううえでは、ものすごく助かりましたね!」
「カートが跳ねるような動きをするのも、勢いをつけるうえでかなり役立ちます。それに、1周目はブレーキングポイントを外す人がいることも予想しておかなければなりません。だから僕はいつも少し早めにブレーキをかけていました」
「そうすれば誰かがスピンした時にも反応する時間があります。何度か軽くぶつかっただけでしたし、もっと接触が多いと思っていたので、かなりすごいことだと思います」

フルコースイエローを挟み、2周目にレースが再開されると、フェルスタッペンはさらにペースアップ。
挑戦者たちはフェルスタッペンが背後に迫ると、次々と一度だけ使えるチャッキー・コーナーへ逃げ込み、なんとか差を広げようとする。それでもフェルスタッペンは1台、また1台と攻略していった。
4周目にはトップ20、6周目にはトップ10へ進出。時には抜き際に相手へ手を振る余裕まで見せた。
あまりの速さに、抜かれたドライバーの一人は「見てくれ、本当にすごいドライバーだ。愛してるよ!」と興奮気味に無線で叫んだ。
一方、目の前まで迫られた別のドライバーは「ノー!」と叫びながら手を出し、「来るな」と言わんばかりのジェスチャーで必死に抵抗。しかしフェルスタッペンは意に介さず、ホームストレートで抜き去った。
7周目には小さなアクシデントも起きた。
少しでもタイムを削ろうと縁石を攻めたフェルスタッペンだったが、高い縁石に乗ってカートのバランスを崩し、取り付けられていた約1kgのウエイトが外れるハプニングが発生。GoProも失ってしまった。
「縁石にタッチしちゃった。コーナーで判断を間違えた。GoProがないよ!」
そんな会話をしながらもペースは落ちない。そのまま追撃を続け、同周終了までに5番手へ浮上した。
8周目以降、フェルスタッペンの前に残ったのは腕に覚えのある上位勢だけとなった。
トップ3との差は一時約10秒。ここからはコース上の台数も減り、単独でタイムを削る本格的な追走となった。
一方のトップ集団では、フェルスタッペンから逃げ切ろうとするドライバー同士が激しく順位を争っていた。しかし、バトルをすればするほどラップタイムは落ちる。その間にもフェルスタッペンとの差はみるみる縮まっていった。
スタート前に「最初の2周が重要。できるだけ早く混雑を抜け出すことが大切」と語っていたフェルスタッペン。その狙いどおり、序盤の大量オーバーテイクが終盤になって大きく効いてきた。
12周目には、ついに最後の3台を完全に射程圏内へ捉えた。
そして14周目。
すでに97人をオーバーテイクしていたフェルスタッペンは、激しく順位を争うトップ3に追いついた。
その頃、すでにフェルスタッペンに抜かれてレースを終えた挑戦者たちは、コース脇から最後の攻防を見守る観客になっていた。
先頭2台がS字でサイド・バイ・サイドのバトルを繰り広げ、立ち上がりが鈍った。その隙を逃さずフェルスタッペンが一気に2台を攻略すると、残るは目の前の1台のみ。
大歓声が上がる中、フェルスタッペンは次のコーナーでイン側へ飛び込み、最後の1台もオーバーテイクした。
101番グリッドからスタートしたフェルスタッペンは、30周以内という条件に対し、わずか約35分、14周目で100人全員を抜き切った。

勝利を決めると、無線ではおなじみの言葉が飛び出した。
「Simply Lovely(最高ですね)」
レース後には「最初の1周はいくつかの場所で運にも恵まれました。すごく楽しかったです」と笑顔で振り返った。そしてトロフィーを手にすると、「今年初めてのトロフィーですから、これはもらっておきます!」といたずらっぽく語った。
F1スペインGPを終えてわずか3日後。フェルスタッペンはシルバーストンで、F1とはまったく異なる舞台でも異次元のレーステクニックを披露した。
30周どころか、その半分にも届かない14周目での100人抜き。逃げる100人と、それを本気で追い続けた4度のF1王者。レッドブルが用意した無謀な挑戦は、フェルスタッペンが本気になったことで、想定以上に早くフィニッシュを迎えた。
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